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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)6079号 判決 1998年1月28日

原告

西井隆司

西井孝子

右両名訴訟代理人弁護士

大槻守

被告

ユタカ精機株式会社

右代表者代表取締役

竹内みや子

被告

ユタカ精密株式会社

右代表者代表取締役

竹内みや子

被告

竹内みや子

右三名訴訟代理人弁護士

山田紘一郎

主文

一  被告ユタカ精機株式会社は、原告西井隆司に対し、二九万三一五二円及びこれに対する平成七年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告西井隆司のその余の請求及び原告西井孝子の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告ユタカ精機株式会社は、原告西井隆司に対し、一億一一二四万円、原告西井孝子に対し、四三一万六五〇〇円及びこれらに対する平成七年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  被告ユタカ精密株式会社は、原告西井隆司に対し、三四八一万四〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告竹内みや子は、原告西井隆司に対し、三一四九万五〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告西井隆司(以下「原告隆司」という。)の、被告精機に対する退職金請求権

(一) 原告隆司は、昭和三〇年四月一日、竹内鉄工所こと竹内清(以下「清」という。)に雇用され、清が、昭和三四年二月に株式会社ユタカ精工(以下「精工」という。)を設立すると、同社に雇用され、同年三月までには、役付(班長職)に任命された。清が、昭和四〇年五月六日、被告ユタカ精機株式会社(以下「被告精機」という。以下、後記の被告ユタカ精密株式会社を「被告精密」といい、被告精機と被告精密をあわせて「被告両社」という。)を設立すると、原告隆司は、被告精機に雇用された。

(二) 原告隆司は、昭和四三年五月二九日、被告精機を退職し、同月三〇日、被告精機の取締役に就任した。

(三) 被告精機の就業規則において、被告精機の退職金算定のための勤続年数には、被告精機の前身である精工及び竹内鉄工所こと清に雇用されていた期間を通算する旨規定されている。

(四) したがって、原告隆司は、被告精機に対し、労働契約に基づき、次のとおり、退職金請求権を有する。

(1) 一般従業員としての退職金

(昭和四三年五月当時の基本給+職能給+職務給)×(勤続一三年に対応する退職金支給率)=二二万円×一一・六=二五五万二〇〇〇円

(2) 役付功労退職金

(昭和四三年五月当時の役付手当)×(役付勤続年数九年に対応する役付功労退職金支給率)=五万円×八=四〇万円

(3) 合計二九五万二〇〇〇円

(4) 賃金水準との調整

原告隆司は、昭和四三年五月二九日、被告精機を退職し、同月三〇日、被告精機の取締役に就任したのであるから、本来、その時点で退職金が支払われるべきであった。原告隆司は、被告精機に対し、右のような場合、通常であれば、右退職金が本来支払われるべきであった時点から民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求することができるにとどまるが、昭和四三年以後現在までの経済発展、物価・賃金の上昇率を考慮すると、公平の観点から、少なくとも右退職金について、次のとおり、年五分の複利計算により算出した金員を請求できるものである。

(昭和四三年五月当時の退職金)×(二六年間の年五分の複利計算利率)=二九五万二〇〇〇円×三・五五五四=一〇四九万五五四〇円

2  被告両社による、原告西井隆司の取締役解任

(一) 原告隆司は、昭和四三年五月三〇日、被告精機の取締役工場長に、平成六年四月一日、被告精機の代表取締役にそれぞれ就任した(最後の取締役就任は、平成六年五月三一日)。

(二) 原告隆司は、昭和六〇年四月一日、被告精密が設立されると、被告精密の専務取締役に就任した(最後の取締役就任は、平成六年一月三一日)。

(三) 被告精機の、平成六年一一月二一日及び同年一二月一三日当時の取締役は、原告隆司、被告精機及び被告精密代表者兼被告本人竹内みや子(清の長女。以下「被告みや子」という。)竹内みちゑ(清の妻。以下「みちゑ」という。)、小宮武志(以下「小宮」という。)であった。

被告精密の、平成六年一二月一三日当時の取締役は、原告隆司、被告みや子、みちゑ、小宮、眞鍋明(以下「眞鍋」という。)であった。

(四) 原告隆司は、平成六年一一月一九日、被告みや子から、みちゑの体調が不調であるので、一度見舞いに来て欲しい旨の電話連絡を受けたので、同年一一月二一日、みちゑ宅を訪問したところ、被告みや子、みちゑ、小宮が既にみちゑ宅に集合していた。被告みや子は、原告隆司がみちゑ宅に到着するや、被告精機の取締役会の開会を宣言し、被告精機の取締役会において、原告隆司を被告精機の代表取締役から解任する旨の決議及び被告みや子を代表取締役に選任する旨の決議がされ、被告みや子は、同日、被告精機の代表取締役に就任した。

原告隆司は、清(平成六年八月二八日死亡)の遺族と事を構えることは望まなかったので、自ら被告精機の代表取締役の辞任届を提出して代表取締役を辞任した。

(五) 被告みや子は、平成六年一二月一三日、被告みや子、小宮、原告隆司出席の上、被告精機の取締役会の開会を宣言し、被告精機の取締役会において、原告隆司を被告精機の取締役から解任する旨の決議がされた。

原告隆司が、被告みや子に対し、右取締役解任の理由の説明を求めても、被告みや子は、解任には理由はいらないと述べただけで、明確な理由は説明しなかった。

被告みや子は、平成六年一二月一三日、被告精機の取締役会終了直後、被告みや子、小宮、原告隆司出席の上、被告精密の取締役会の開会を宣言し、被告精密の取締役会において、原告隆司を取締役から解任する旨の決議がされた。

(六) 被告精機及び被告精密は、平成六年一二月一四日、原告隆司の取締役解任登記をした。

3  株式会社において、取締役の解任は、株主総会しかなしえないものであるから、2(五)の取締役の解任は、いずれも法律的には無効であるが、これが有効な場合、被告両社は、原告隆司に対し、次のとおりの金員の支払をする義務がある。

(一) 原告隆司の被告精機に対する商法二五七条一項ただし書に基づく損害賠償請求権

原告隆司の被告精機における報酬は、平成六年一一月当時、月額一四〇万円であった。したがって、被告精機の取締役解任の日の翌日である平成六年一二月一四日から、本来の任期満了の日(最後の取締役就任の日から二年後の日)である平成八年五月三〇日までの間(一七か月)に得べかりし報酬は、次のとおり、二四八〇万円である。

(1) 平成六年一二月分の未払報酬額

一〇〇万円

(2) 平成七年一月から平成八年五月まで(一七か月)の未払報酬額

(報酬月額)×(一七か月)=一四〇万円×一七=二三八〇万円

(3) 合計 二四八〇万円

(二) 原告隆司の、被告精密に対する商法二五七条一項ただし書に基づく損害賠償請求権

原告隆司の被告精密における報酬は、平成六年一一月当時、月額五一万五〇〇〇円であった。したがって、被告精密の取締役解任の日の翌日である平成六年一二月一四日から、本来の任期満了の日(最後の取締役就任の日から二年後の日)である平成八年一月三〇日までの間(一三か月)に得べかりし報酬は、次のとおり、六六九万五〇〇〇円である。

(報酬月額)×(一三か月)=五一万五〇〇〇円×一三=六六九万五〇〇〇円

(三) 原告隆司の、被告両社に対する退職慰労金請求権

(1) 被告両社は、原告隆司の退職慰労金については、株主総会の決議をしていないが、被告両社は、そもそもこれまでに株主総会を開催したことがなかったのであり、にもかかわらず、被告両社は、元取締役であった清に対し、死亡退職慰労金を支給した。また、原告隆司は被告両社のために職務に精勤してきたにもかかわらず、被告みや子らによって一方的に被告両社の取締役を解任されたのであるから、株主総会の決議がないという一事のみで退職慰労金の請求ができないと解するのは衡平に反し、不合理である。その一方、被告精機には退職慰労金規程が存在し、被告精密には退職慰労金規程が存在しないものの、実質的には被告精機の退職慰労金規程によって退職慰労金を支給する慣例になっていたので、被告両社には、株主総会の決議を経ないで退職慰労金を支給することによるお手盛りの弊害のおそれがない。

したがって、原告隆司は、被告両社に対し、株主総会の決議なくして、退職慰労金の請求をすることができるものである。

(2) 原告隆司の、被告精機に対する退職慰労金請求権

被告精機の役員退職慰労金規程によれば、原告隆司の退職慰労金は、次のとおり、七六四四万円である。

ア 基準額(同規程四条)

(原告隆司の退職時の報酬月額)×(原告隆司の在職年数・昭和四三年五月三〇日から平成八年五月三〇日まで二八年間)=一四〇万円×二八=三九二〇万円

なお、原告隆司は、平成六年一二月一三日に被告精機の取締役を解任されたが、退職慰労金の算定には、本来の任期満了の日(最後の取締役就任の日から二年後の日)までの期間を在職期間として計上するべきである。仮に、平成六年一二月までの在職期間を退職慰労金算定の基準とするとしても、得べかりし退職慰労金と右退職慰労金の差額は損害賠償金として請求しうべきであるので、原告隆司が被告精機に対して請求できる金額には変わりがない。

イ 役位別加算(同規程五条)

(基準額)×(代表取締役社長としての役位別加算倍率)=三九二〇万円×一・五=五八八〇万円

ウ 功労加算(同規程一〇条)

(役位別加算額)×(在任中その功績が顕著であったと株主総会で認められた社長経験者に対する加算率)=五八八〇万円×一・三=七六四四万円

(3) 原告隆司の、被告精密に対する退職慰労金請求権

被告精密には退職慰労金規程が存在しないが、被告精機の退職金規程によって退職慰労金を支給することが慣例となっている。同規程によれば、原告隆司の退職慰労金は、次のとおり、二八一一万五(ママ)〇〇〇円である。

ア 基準額

(原告隆司の退職時の報酬月額)×(原告隆司の在職年数・昭和四三年五月三〇日から平成八年一月三〇日まで二八年間)=五一万五〇〇〇円×二八=一四四二万円

なお、被告精密の設立は昭和六〇年四月一日であるが、被告精密が設立された際、原告隆司は、被告両社の取締役を併任することとなり、これに伴って、従前被告精機のみから受領していた報酬を二つに分け、被告両社から受領するようになったという経緯に照らすと、原告隆司の被告精密における在職期間は、実質的には被告精機と同一で、昭和四三年五月から起算して計算するべきである。

また、原告隆司は、平成六年一二月一三日に被告精密の取締役を解任されたが、退職慰労金の算定には、本来の任期満了の日(最後の取締役就任の日から二年後の日)までの期間を在職期間として計上するべきである。仮に、平成六年一二月までの在職期間を退職慰労金算定の基準とするとしても、得べかりし退職慰労金と右退職慰労金の差額は損害賠償金として請求しうべきであるので、原告隆司が被告精密に対して請求できる金額には変わりがない。

イ 役位別加算(同規程五条)

(基準額)×(代表取締役社長としての役位別加算倍率)=一四四二万円×一・五=二一六三万円

なお、原告隆司は、被告精密の代表取締役に就任していなかったが、被告精密からの報酬は、被告精機からの報酬を形式的に二つに分けただけのことであり、本来は被告精機から受領するべきものであったので、退職慰労金の算定に当たっては、被告精機を基準として、原告隆司が、代表取締役社長であったものとして計算するべきである。

ウ 功労加算(同規程一〇条)

(役位別加算額)×(在任中その功績が顕著であったと株主総会で認められた社長経験者に対する加算率)=二一六三万円×一・三=二八一一万九〇〇〇円

なお、原告隆司は、被告精密では代表取締役に就任していなかったが、退職慰労金の算定に当たっては、原告隆司が代表取締役であったものとして計算するべきであるのは、イと同様である。

4  原告隆司の、被告みや子に対する、不法行為に基づく損害賠償請求権

(一) 被告みや子は、平成六年一二月一三日当時、被告両社の代表取締役であったのであるから、被告両社を適正に運営していく義務を負っていた。

(二) しかるに、被告みや子は、平成六年一二月一三日、何らの招集手続を経ずして、被告両社の取締役会を開催する旨宣言し、被告両社の取締役会をして、突然原告隆司を被告両社の取締役から解任する旨の決議を行わしめた。

(三) 右行為は、被告みや子が、代表取締役としての職権を濫用し、違法な手続で原告隆司を解任に追い込んだものであるから、原告隆司に対する不法行為に該当する。

(四) その結果、原告隆司は、右不法行為がなければ被告両社から本来の任期満了の日までに受けられたはずの報酬相当額(被告精機につき二四八〇万円、被告精密につき六六九万五〇〇〇円、合計三一四九万五〇〇〇円)の損害を被った。

(五) 仮に(三)、(四)の主張が認められないとしても、原告隆司は、右解任により、長年培ってきた信用も実績も失ったのみならず、再就職も困難で、今後の生活に計り知れない不安を余儀なくされた。

(六) 被告みや子による右解任によって原告隆司に生じた精神的、経済的苦痛を、慰藉料に換算すると、三一四九万五〇〇〇円を下らない。

5  原告西井孝子の、被告精機に対する賃金請求権

(一) 原告西井孝子(以下「原告孝子」という。)は、昭和四四年三月以降、被告精機から月額二五万七七〇〇円の賃金を得てきた。

(二) 原告孝子は、被告精機とは労働契約を締結してはおらず、しかも、被告精機に対し、右賃金に見合うほどの労務の提供もしなかったが、緊急の場合に業務を補う等、隠れた形で被告精機に貢献してきた。また、右金員は、実質的には原告隆司の報酬であり、単に税務対策の趣旨で原告孝子に支給されたものである。

以上のような状況の下では、原告孝子は、被告精機に対し、賃金請求権を有するというべきである。

(三) したがって、被告精機は、原告孝子に対し、次の金額を支払う義務がある。

(1) 平成六年一二月分賃金のうち未払額

六万〇二九〇円

(2) 退職金(一二万八九〇〇円×二五・九)

三三三万八五一〇円

(3) 平成六年一二月支給の賞与

六六万円

(4) 解雇予告手当

二五万七七〇〇円

(5) 合計

四三一万六五〇〇円

6  結論

よって、原告隆司は、被告精機に対し、労働契約に基づく退職金一〇四九万五五四〇円のうち一〇〇〇万円、商法二五七条一項ただし書に基づく報酬相当損害金二四八〇万円、委任契約に基づく退職慰労金七六四四万円の合計一億一一二四万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、被告精密に対し、商法二五七条一項ただし書に基づく報酬相当損害金六六九万五〇〇〇円、委任契約に基づく退職慰労金二八一一万九〇〇〇円の合計三四八一万四〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、被告みや子に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権三一四九万五〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求め、原告孝子は、被告精機に対し、労働契約に基づき、未払賃金六万〇二九〇円、退職金三三八(ママ)万八五一〇円、未払賞与六六万円、解雇予告手当二五万七七〇〇円の合計四三一万六五〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)のうち、原告隆司が昭和三四年に役付(班長職)となったとの点は否認し、その余は認める。

原告隆司が役付となったのは、被告精機が設立された昭和四〇年五月以降である。

(二)  同1(二)のうち、原告隆司が、昭和四三年五月三〇日、被告精機の取締役に就任した点は認め、その余は否認ないし争う。

原告隆司は、昭和四三年五月三〇日、従業員兼務の取締役(取締役工場長)に就任したのであって、従業員たる地位を退職してはいない。原告隆司は、平成六年四月一日、被告精機の代表取締役社長に就任したので、その時点で、被告精機の従業員たる地位を退職したものである。

(三)  同1(三)は認める

(四)  同1(四)は争う。

(1) 同1(二)(ママ)(1)のうち、勤続一三年に対応する退職金支給率が一一・六である点は認め、その余は否認ないし争う。

(2) 同1(二)(ママ)(2)は否認ないし争う。

原告隆司が被告精機の役付になったのは、昭和四〇年五月(被告精機の設立時)以降からであり、役付勤続年数は三年一か月でしかない。

なお、原告隆司が被告精機の取締役に就任した当時(昭和四三年五月三〇日)の就業規則では、役付の従業員に対し、退職金として、退職当時の基本給月額に在職年数に応じた支給率を乗じて得た額に、役付功労退職金(退職当時の役付手当に役付勤続年数に応じた支給率を乗じて得た額)を加算した額を支給する旨規定していた。

原告隆司の昭和四三年五月当時の基本給月額は二万二四〇〇円、勤続年数一三年二か月に対応する退職金支給率は一一・八三、役付手当月額は一万六〇〇〇円、役付勤続年数三年一か月に対応する役付功労退職金支給率は一・七六である。

(勤続年数一三年二か月に対応する退職金支給率)=(勤続年数一三年に対応する退職金支給率)+(勤続年数一四年に対する退職金支給率と同一三年に対応する退職金支給率の差の二か月分)=一一・六+(一三・〇-一一・六)×二÷一二=一一・八三

(役付勤続年数三年一か月に対応する役付功労退職金支給率)=(役付勤続年数三年に対応する役付功労退職金支給率)+(役付勤続年数四年に対応する役付功労退職金支給率と同三年に対応する役付功労退職金支給率の差の一か月分)=一・七+(二・四-一・七)×一÷一二=一・七六

したがって、被告精機が、原告隆司に対し、昭和三〇年四月一日から昭和四三年五月三〇日までの期間の退職金は、次のとおり、二九万三一五二円を超えては存在しない。

(基本給月額)×(退職金支給率)+(役付手当月額)×(役付功労退職金支給率)=二万二四〇〇円×一一・八三+一万六〇〇〇円×一・七六=二六万四九九二円+二万八一六〇円=二九万三一五二円

(3) 同1(二)(ママ)(3)、(4)は争う。

2(一)  同2(一)ないし(三)は認める。

(二)  同2(四)のうち、被告精機の取締役会において、平成六年一一月二一日、原告隆司を代表取締役から解任する旨の決議がされたこと、被告みや子が、平成六年一一月二一日、被告精機の代表取締役に就任したことは認め、その余は否認する。

(三)  同2(五)は概ね認める。

ただし、被告みや子と小宮は、他の株主(被告精機については原告隆司、原告孝子、西井直美、被告精密については原告隆司、原告孝子を除く。)の委任状を取り付け、平成六年一二月一三日、原告隆司に対し、被告両社の株主の全員出席の株主総会を開会する旨を告げたところ、原告隆司は、原告孝子、西井直美名義(ただし、西井直美名義に関しては、被告精機に限る。)の株式の分も含め、その開会に異議がない旨述べたので、その場で被告両社の株主総会を順次開会し、原告隆司を被告両社の取締役から解任する旨の決議がされたものである。

(四)  同2(六)は認める。

3  同3は否認又は争う。

被告両社は、平成六年一二月一三日、株主全員出席(委任状を含む。)の上で株主総会を開会し、その株主総会で原告隆司を被告両社の取締役から解任したのであって、手続的に適法に解任したものである。

(一) 同3(一)は否認ないし争う。

原告隆司の被告精機における報酬は、平成六年一一月当時、月額四〇万円でしかなかった。

(二) 同3(二)のうち、原告隆司の被告精密における報酬が、平成六年一一月当時、月額五一万五〇〇〇円であったことは認め、その余は争う。

(三)(1) 同3(三)(1)のうち、被告精機に退職慰労金規程が存在し、被告精密には退職慰労金規程が存在しないこと、清に退職慰労金を支給したことは認め、その余は否認ないし争う。

なお、被告精機の退職慰労金規程三条には、退職慰労金の支給には株主総会の議決が必要であると規定されている。

(2) 同3(三)(2)は争う。

ア 同3(三)(2)アは否認する。

原告隆司の被告精機における報酬は、平成六年一一月当時、月額四〇万円であった。また、原告隆司は、平成六年三月までは、その実質は工場長にすぎなかったのであるから、少なくとも代表取締役であった期間を除いては、役員退職金規程の適用の対象とならない。

イ 同3(三)(2)イのうち、代表取締役の役位別加算倍率が一・五であることは認め、その余は否認ないし争う。

ウ 同3(三)(2)ウのうち、社長経験者の功労加算倍率が一・三であることは認め、その余は否認ないし争う。

原告隆司は、被告精機に対する功労はなかったので、功労加算の主張は失当である。

4(一)  同4(一)は認める。

(二)  同4(二)は、被告みや子が前もって株主総会の招集手続を採らなかったとの点は認め、その余は否認ないし争う。

被告みや子と小宮は、あらかじめ他の株主の委任状(ただし、被告精機に付き原告隆司、原告孝子、西井直美、被告精密に付き原告隆司、原告孝子を除く。)を取り付け、原告隆司に対し、平成六年一二月一三日、被告両社の全員出席の株主総会を開催する旨告げたところ、原告隆司は、原告孝子、西井直美名義(西井直美名義については、被告精機に限る。)である分も含め、その開会に異議がない旨述べたので、適法に被告両社の株主総会を開会し、右総会において、原告隆司の被告両社取締役解任決議が順次されたものである。

(三)  同4(三)は争う。

被告両社は、適法に原告隆司を取締役から解任したのであるから、被告みや子に不法行為が成立する余地はない。

(四)  同4(四)は争う。

(五)  同4(五)は争う。

被告両社は、適法に原告隆司を取締役から解任したのであるから、被告みや子に不法行為が成立する余地はない。

(六)  同4(六)は争う。

5(一)  同5(一)は、被告精機が、原告孝子に対し、月額二五万七七〇〇円を支給してきた点は認め、その余は否認する。

被告精機は、原告孝子と労働契約を締結したことはなく、現に原告孝子は一日たりとも被告精機に勤務したことがなかった。右金員は、いわば支給根拠のない闇給与として支給されてきたものにすぎない。

(二)  同5(二)は、原告孝子が被告精機と労働契約を締結しなかったこと、原告孝子が被告に対し、原告孝子請求に係る賃金に見合うだけの労務の提供をしたことがないことは認め、その余は否認ないし争う。

右金員は、支給根拠のない闇給与とでもいうべきものであった。

(三)  同5(三)は争う。

三  抗弁

1  正当事由(請求原因2、3に対し)

(一)(1) 被告両社は、昭和二七年に清が開業した個人企業を前身とし、清の尽力により発展した会社であり、清死亡(平成六年八月二八日)以前は実質的に竹内一族がほとんどの株式を所有していたのであるから、実質的に竹内一族の個人会社である。

(2) また、清は、原告隆司に対し、平成六年四月一日、原告隆司を被告精機の代表取締役に選任するに当たり、清が元気な間は、被告両社の経営一切を清の指示なしには行ってはいけない旨を命じ、平成六年八月には、清の死亡後は被告みや子に一切を相談し、その指示に従って被告両社を運営するように指示した。

(3) したがって、被告両社の役員であった原告隆司は、会社経営、会社資産の処分等被告両社に関する一切の事項につき株主の意向に従うことは勿論、株主から会社経営等に関し説明を求められればその都度誠実に説明し、株主の意向を経営に反映させる義務があった。

(4) しかるに、原告隆司は、以下に述べるとおり、右義務に違反した行動を繰り返したのであるから、原告隆司を被告両社の取締役から解任したことには正当な理由がある。

(二) 原告隆司は、清が平成六年八月二八日に死亡すると、すぐにその自宅に赴き、自宅前に置いてあった会社専用の乗用車を、持ちかえって使用し始めた。

(三) 原告隆司は、清の初七日の前日ころに、みちゑに対して暴言を吐き、被告両社名義の不動産権利証、ゴルフ会員権証書、ゴルフクラブなどを勝手に持ち去った。

(四) 原告隆司は、被告みや子及びみちゑに対し、平成六年九月一二日、虚偽の事実を申し向けた上、原告孝子を被告精機の取締役に、みちゑを被告精密の取締役にする旨言い放ち、翌日、その旨の登記を行った。

(五) 原告隆司は、株主であり取締役である被告みや子の意向を無視し、かつ、清の遺志にも反して、被告精機に被告精密を合併させ、奈良のテクノパーク内に七億円の借金をして工場用地を購入して被告両社を移転し、さらに、九州にも工場を作ろうとした。

(六) 原告隆司は、時価約一億円の宝塚ゴルフクラブのゴルフ会員権を、清の生命保険金を原資として無断で購入しようとし、また、平成六年一一月一〇日の被告精機の株主総会決議に基づく、原告孝子の退任登記、小宮及びみちゑの取締役選任登記並びに澤井康二税理士(以下「澤井」という。)の監査役選任登記の手続を進める澤井に当たり散らして会社内ではスパイ探しもどきの言動を繰り返した。

(七) 原告隆司は、平成六年一一月一五日、被告みや子の被告精機の代表取締役就任と、自らの被告精機の代表取締役の辞任を約束し、かつ、被告精密の取締役として小宮を選任することに同意した。

そこで、平成六年一一月一六日に被告精機の取締役会及び被告精密の株主総会を開催して右各選任決議を行ったが、原告隆司は、いったん辞任を約束しながら、澤井が作成した被告精機の代表取締役の辞任のための書類に押印を拒絶した。

また、原告隆司は、従業員に対し、「社長は俺だ、他の者の言うことを聞くな。」と言って社内を混乱させた。

(八) 原告隆司は、平成六年一一月二一日、被告精機の取締役会で代表取締役から解任されたにもかかわらず、被告みや子への業務の引き継ぎを拒否し、あたかも自らが依然として被告精機の代表取締役社長であるかのごとく振る舞い、いずれは自分が社長に復帰すると内外にうそぶくなどして、社内の秩序を乱した。

2  放棄

原告隆司は、被告両社に対し、平成六年一二月一三日、退職慰労金請求権をいずれも放棄する旨の意思表示を示した。

四  抗弁に対する認否

1(一)(1) 抗弁1(一)(1)は概ね認める。

しかし、被告両社の発展は原告隆司の尽力に負うところも大きい。また、被告精機の従業員数は二四名、被告精密の従業員数は三五名であるから、株式会社としての実体を有しており、個人会社と言い切れるほど小規模ではない。

(2) 同1(一)(2)は否認する。

(3) 同1(一)(3)は争う。

前記(1)記載のとおり、被告両社は、個人会社と言い切れるほど小規模ではない。仮に、被告両社が実質的には個人会社であったとしても、株式会社である以上、会社の業務執行は、商法上取締役会の権限に属するのであるから、各取締役は、会社に対し、商法規定の善管注意義務(商法二五四条三項、民法六四四条参照)及び忠実義務(商法二五四条ノ三参照)を負うに止まるものである。

(4) 同1(一)(4)は争う。

(二) 同1(二)は認める。

ただし、代表取締役が、会社専用の乗用車を会社に持ち帰り、これを使用することには何ら問題がないものである。

(三) 同1(三)のうち、原告隆司がみちゑ方から被告両社名義の不動産権利証、ゴルフ会員権証書などを会社に持ち帰ったことは認め、その余は否認する。

なお、原告隆司が右不動産権利証等を持ち帰った際、被告みや子も立ち会いの下でリストも作成されており、被告らが主張するような乱暴な手段は採っていない。

(四) 同1(四)のうち、同項記載の登記がなされたことは認め、その余は否認する。

右登記は、事前に被告みや子宅において、被告みや子及びみちゑと相談して了解を得た上で、澤井がその旨の登記手続をしたものである。

(五) 同1(五)ないし(七)は否認する。

(六) 同2(八)は否認する。

原告隆司は、同年一一月二一日、自ら辞任届を出して、代表取締役の地位から退いたものである。

2 同2は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  当事者間に争いのない事実並びに成立に争いのない(証拠・人証略)に、弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実が認められ、これに反する(証拠略)は、前掲各証拠に照らし、採用することができない。

1(一)  清は、昭和二七年五月、大阪府八尾市において、ゴムモールド金型、プレス金型の製造を目的とする竹内鉄工所を個人で設立し、昭和三四年二月、竹内鉄工所を法人改組して、株式会社ユタカ精工(精工)を設立し、昭和四〇年五月六日、精工のうちの金型部門と特殊パッキング部品の部門を独立させて、ユタカ精機株式会社(被告精機)を設立した。

清は、工業用パッキング類の製造等を目的とする日本バルカー株式会社(以下「日本バルカー」という。)に対し、昭和二七年ころ、同社が倒産の危機に瀕したときに、他社が見放す中、あえて取引を継続したことから、同社の信頼を獲得した。被告精機は、その前身である竹内鉄工所、精工の時代から、一貫して日本バルカーから大量に受注し、被告精機においては、日本バルカーの製造する渦巻形ガスケット(商品名バルカタイト)の直径二〇〇センチメートル以下の製品は一〇〇パーセント、それ以外の製品は八五パーセントを受注し、被告精機の生産する製品のすべては日本バルカーに納入し、日本バルカーの専属協力工場の認定を受けるなど、被告精機と日本バルカーとは、密接な関係を有している。

(二)  清は、昭和四七年一〇月、放電加工技術を有するエンジニアである眞鍋を三菱電機株式会社から招き入れて、被告精機の一部門として精密金型事業部を発足させた。同事業部は、主な取引先が松下電器産業株式会社、松下電子部品株式会社等であったが、発足後、順調に売上を伸張させ、昭和六〇年には、日本バルカーに対する売上を超えるまでに至ったところ、このままでは日本バルカーとの専属協力工場の認定を取り消されるおそれが出たので、被告精機は、昭和六〇年四月一日、同事業部を独立させて、ユタカ精密株式会社(被告精密)を設立した。

2(一)  原告隆司は、昭和一五年一月五日に出生し、三歳のころ、実母と死別した。原告隆司は、中学校卒業後間もなくの昭和三〇年四月一日、叔母であるみちゑを頼って、同人宅に身を寄せ、定時制高校に進学しながら、被告両社の前身である竹内鉄工所こと清に雇用された。

(二)  清は、昭和三四年二月、竹内鉄工所を法人改組して、精工を設立したところ、原告隆司は、精工に雇用された。清が、昭和四〇年五月六日、被告精機を設立すると、原告隆司は、被告精機に雇用され、同月中に役付に任命され、昭和四三年五月三〇日、被告精機の取締役工場長に、平成六年四月一日、被告精機の代表取締役に就任した。また、原告隆司は、昭和六〇年四月一日、被告精密が被告精機から独立すると、被告精密の取締役専務に就任した。

3(一)  原告隆司は、そもそも、営業のため、とかく外出することが多く、被告精機の人事こそ清と共同で行っていたが、被告精機の日常の納品、受注、見積もり、工場全般の管理については、専ら被告精機工場次長松本博民(以下「松本」という。)が取り仕切っており、製品の価格設定や設備投資などの被告精機の重要な事項については、清が経営判断をしており、結局、原告隆司は、被告精機の業務をあまり遂行してはいなかった。また、原告隆司は、被告精機において、有益ではない設備投資をしたり、日本バルカーから他社に受注が流れそうになるなどして、清から叱責を受けたことがあった。

(二)  また、原告隆司は、被告精密の営業を担当していたが、主要な取引先である松下電器産業株式会社、松下電子部品株式会社、松下電工株式会社等に対する営業は、眞鍋が執り行い、ダイハツ工業株式会社に対する営業は被告精密従業員鍛治田が執り行っており、現実に原告隆司が担当していた営業は、割合にして小さいものであった。

4  清は、昭和六〇年四月、被告精機から被告精密を独立させるに当たり、自らは被告精機の代表権のない取締役会長に就任し、後任の代表取締役社長として、原告隆司を就任させることを考えた。しかし、清は、原告隆司の人事管理能力、特に人材育成の能力の欠如、その人間性等において、原告隆司に被告精機の代表取締役社長を任せることには躊躇を感じるが、妻のみちゑ、長男の竹内豊を選任することは対外的にもできないので、結論としては原告隆司を代表取締役に選任することとするが、その代わりに、みちゑ、竹内豊を被告精機の取締役に選任し、原告隆司の専横を排する心づもりを有するまでに至ったが、結局は、右決断に至らず、清は、被告精機の代表取締役を退任せず、その地位にとどまった。

5  清は、平成五年夏ころから体力の衰退を自覚するようになったため、平成六年四月一日、自らは被告精機の代表取締役から退任して取締役会長として経営の第一線を退き、原告隆司を被告精機の代表取締役に選任した。

清は、平成六年八月六日、自己の死に備え、原告隆司に対し、被告両社の経営に当たり、原告隆司の能力には信頼を置いているが、社会情勢の変化等によって経営状態が悪化することは考えられること、被告両社は、原告隆司にとっても竹内一族にとっても大きな資産であるので、被告みや子に対し、毎月の資産表及び年一回の決算報告をすること、大きな流れによる経営困難の場合には、被告みや子と相談の上、会社売却という対策を考える腹をくくっておくことを内容とする遺訓を残した。

6(一)  清は、平成六年八月二八日に死亡した。

(二)  原告隆司は、清の葬式(平成六年八月三〇日)直後から、それまで創業者一族に対して腰の低い態度をとっていたのが急変し、みちゑや被告みや子を呼び捨てにし、自分が被告精機の代表取締役社長であることを笠に着て、同人らに対し、清の生存中は何も言えなかったが、今からは、自分の言うことを逆らわらずに聞くようにと言いつけた。

(三)  原告隆司は、平成六年八月三〇日、火葬場から帰宅する際、清が乗っていた被告精機所有の自動車を運転し、そのまま乗って帰った。また、原告隆司は、清の出棺の際、清の生前身につけていた高級腕時計を、形見にするといって勝手に持ち出し、清の葬式の数日後には、被告両社名義の不動産権利証書、ゴルフ会員権証書、清所有であったゴルフバッグ等を清宅から持ち帰った。

なお、原告隆司は、みちゑに対し、平成八年一二月一四日、右ゴルフバック及び腕時計を宅配便で発送して返還した。

(四)  原告隆司は、被告みや子に対し、平成六年九月九日、清死亡により、被告精機の取締役が一名欠員となったところ、二週間以内に欠員となった取締役を新たに選任して登記しないと罰金を科される旨虚偽の事実を申し向け、原告孝子を取締役に選任する予定である旨告げた。被告みや子は、原告隆司に対し、欠員となった取締役には、みちゑを選任するよう求めたが、原告隆司は、被告みや子に対し、みちゑが被告精機の監査役であり、監査役はすぐに退任することはできないので、みちゑは被告精機の取締役に選任するには不適任であると述べた。被告みや子は、原告隆司に対し、平成六年九月一二日、みちゑが監査役を退任することができないのかを澤井に確かめて欲しい、もし退任することができるならば、みちゑを取締役に選任して欲しいと述べた。原告隆司は、澤井が、監査役はすぐには取締役になれない旨の回答をしたとして、被告みや子らの反対を振り切り、平成六年九月一三日、原告孝子を、被告精機の取締役として登記した。

(五)  被告みや子は、澤井に対し、平成六年一一月九日、監査役がすぐには取締役にはなれない旨、原告隆司に回答したのか否かを尋ねたところ、真実は、右回答の事実はないことが判明した。みちゑは、右結果を聞き、原告隆司に対し、原告孝子を被告精機の取締役から退任させ、みちゑと小宮を被告精機の取締役として選任し、監査役に澤井を選任し、その旨の登記をすることを要求し、みちゑや被告みや子らに相談もなく宝塚ゴルフクラブの会員権を原告隆司名義で買おうとしたことを叱責し、以後は、被告みや子やみちゑに何の相談もなく、独断でことを進めるのであれば、被告両社の取締役を退任するよう求めた。

(六)  原告隆司は、被告両社に、清の生命保険金が約二億六〇〇〇万円支払われたので、みちゑ、被告みや子らに報告することなく、これを原資として、自己名義で、宝塚ゴルフ会員権を購入しようとした。しかし、澤井が、これをみちゑや被告みや子に報告したため、原告隆司は、同人らから強く叱責され、結局右購入を断念した。原告隆司は、澤井が右報告をしたことについて憤り、澤井を辞めさせると言った。

7(一)  被告みや子は、原告隆司に対し、平成六年一一月一九日夕方、みちゑの体調が思わしくないので、翌日にでも、みちゑの自宅(大阪府吹田市)まで見舞いに来て欲しい旨の電話をかけ、原告隆司から平成六年一一月二一日午後二時ころにみちゑの自宅に見舞う旨の約束を取り付けた。

(二)  原告隆司が、平成六年一一月二一日午後二時ころ、みちゑの自宅に見舞いに行くと、被告みや子、みちゑ、小宮が別室から現れ、小宮が、原告隆司に対し、同人が被告両社を私物化していること、創業者一族である竹内一族に対する恩恵の念を欠いていることを諌めたが、原告隆司は、これに反省することはなかった。また、小宮は、原告隆司に対し、清が生前被告みや子を被告両社の代表取締役社長とし、原告隆司はこれを補佐するという遺志を持っていたことを言い聞かせ、被告両社の代表取締役の辞任を迫ったが、原告隆司はこれに応じなかった。そこで、小宮は、直ちに被告精機の取締役会を開催し、自らが議長を務める旨宣言した。小宮は、原告隆司の解任動議を提案し、原告隆司はこれに反対したが、被告みや子、みちゑ、小宮の三名は右動議に賛成した。原告隆司は、右解任動議の採決の結果を見て、自ら被告精機の代表取締役を辞任することとした。被告みや子は、右取締役会において、被告精機の代表取締役に選任された。

8(一)  被告みや子は、平成六年一一月二二日、被告精機に出社し、被告精機従業員に対し、代表取締役社長就任の挨拶をし、被告精機の従業員から被告精機の概況説明を受けていると、原告隆司は、工場に赴き、工場次長松本に対し、被告精機の業務はすべて自らが掌握するので、被告みや子に対しては何も報告してはならないことを告げ、その他の従業員に対しても、早朝出勤及び残業を禁止する旨告げて回り、従業員からは、社長が二人いるようで困った旨の苦情も出た。

(二)  被告みや子が、平成六年一二月ころ、被告精機の従業員に支給する一時金の査定等の業務について決裁をする際、原告隆司が、起案をした担当従業員に対し、自らが執り行うので、被告みや子には決裁を上げないようにと働きかけ、書類を離さなかったため、決裁に支障を来したことがあった。また、被告みや子が、取引先である日本バルカーに挨拶回りをしようとすると、原告隆司は、これを阻止しようとした。被告みや子が、原告隆司に対し、被告精機の業務について引継を求めると、被告みや子が代表取締役社長なのであるから、自ら考えればよいと言って、引継をしなかったことがあった。また、原告隆司は、被告精機の工場次長である松本に対し、自分がいなかったら被告精機は一年も経たずに倒産する。お前は辞めないのかと命令口調で申し向けた。

(三)  被告みや子は、原告隆司が、右のように被告精機の業務を混乱させるので、小宮と相談し、まず小宮が原告隆司を説得し、説得に応じなかったら解任するしかないとの結論に達した。

9(一)  被告みや子は、平成六年一二月一二日、翌日には原告隆司の取締役解任の株主総会を開会することを決め、被告精密の株主でかつ共同代表取締役である眞鍋の委任状及び被告精密の株主である眞鍋容子の委任状を初め、被告精機及び被告精密の株主会員(ただし、被告精機については原告隆司、原告孝子、西井直美、被告精密については原告隆司、原告孝子を除く。)の委任状を取り付けた。

(二)  被告みや子と小宮は、平成六年一二月一三日午前一〇時ころ、原告隆司を被告精機の会議室に呼び出し、小宮が、原告隆司の行動は被告精機の業務を混乱させていること、そのため被告精機には出社しないでもらいたいこと、それができないなら被告精機の取締役を辞任してもらいたい旨説得した。しかし、原告隆司は、右説得に応じなかったので、小宮は、原告隆司の取締役解任を議題とする被告精機の臨時株主総会の開会を宣言し、原告隆司の右総会開会に関する意向を確認したところ、原告隆司は、自己名義、妻の原告孝子名義及び娘の西井直美名義分も含め、全員出席総会として臨時株主総会を開会することに異議を述べなかったので、直ちに右株主総会において、原告隆司の取締役解任動議を採決し、右解任動議は賛成多数により可決された。続いて、小宮は、原告隆司の取締役解任を議題とする被告精密の臨時株主総会の開会を宣言し、原告隆司の右総会開会に関する意向を確認したところ、原告隆司は、自己名義及び妻の原告孝子名義分も含め、全員出席総会として臨時株主総会を開会することに異議を述べなかったので、直ちに右株主総会において、原告隆司の取締役解任動議を採決し、右解任動議は賛成多数により可決された。

(三)  右株主総会開会当時、被告精機における原告隆司、原告孝子、西井直美の持株比率合計は一四パーセント、被告精密における原告隆司、原告孝子の持株比率合計は一・三パーセントであった。

10(一)  なお、以上の認定事実に反し、原告隆司は、被告精機の営業報告書(<証拠略>)が被告精機の経営全般にわたる詳細な内容を有するものであり、被告精機の経営全般を把握していなければ作成できないものであり、これによれば、原告隆司が被告精機の経営を実質的に取り仕切っていたというべきであると主張する。確かに、右営業報告書は、その内容が設備計画や人事案件にも及び、しかも詳細に記載されているものであるから、原告隆司は、被告精機の経営の重要な部分を把握していたというべきであるし、(証拠略)によれば、原告隆司が材料の値下げに尽力し、これに成功したことが認められる。しかし、前記認定のとおり、原告隆司は、被告精機の経営については、清の経営判断及び松本等の実務に負うところが大きかったというべきであるし、(証拠略)によれば、日本バルカーからの受注が被告精機以外の会社に流れるおそれが発覚した際、清が自ら対応策を検討し、かつ、対応策を自ら起案して日本バルカーに報告するなど、被告精機の最も重要な経営事項については、清が取り仕切っていたというべきであり、したがって、原告隆司は、被告精機の経営については、一部において相応の関与をしていたということができるものの、重要な経営判断等は清に、日常の実務は松本等に負うところが大きかったというべきであるので、右は、結局前記認定を覆すに足りない。

(二)  また、以上の認定事実に反し、証人真(ママ)鍋は、原告隆司の取締役解任の臨時株主総会の委任状(<証拠略>)は、平成六年一二月一三日の臨時株主総会開会後に作成した旨供述する。しかし、眞鍋は、(証拠略)においては、委任状を作成した覚えはないと供述していたのであるから、供述が矛盾しているばかりか、右臨時株主総会開会当時、被告精密の株主であり、被告精機の取締役、かつ、被告精密の共同代表取締役という重要な地位にいたのであるから、右臨時株主総会の委任状を、事後に作成するというのは不自然であるというべきである。したがって、同人の供述は、採用することができず、右認定を覆すには足りない。

二  請求原因1(原告隆司の被告精機に対する退職金請求権)について

1  一認定の事実及び(証拠略)によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告隆司は、昭和三〇年四月一日、竹内鉄工所こと清に雇用され、昭和三四年二月、精工に雇用され、昭和四〇年五月六日、被告精機に雇用され、工場長に任命され、昭和四三年五月三〇日、被告精機の取締役工場長に就任し、平成六年四月一日、被告精機の代表取締役に就任し、遅くとも、同日までには被告精機の従業員たる地位を退職した。

(二)  原告隆司が被告精機の取締役工場長に就任した昭和四〇年五月六日当時の就業規則には、役付従業員の退職金は、基本給月額に在職年数に応じた支給率を乗じて得た額に、役付功労退職金(退職当時の役付手当に役付勤続年数に応じた役付功労退職金支給率を乗じて得た額)を加算した額とする旨、被告精機の退職金算定のための勤続年数には、被告精機の前身である精工、竹内鉄工所こと清に雇用されていた期間を通算する旨、それぞれ規定されていた。

(三)  原告隆司の、昭和四三年五月当時の基本給月額は二万二四〇〇円、勤続年数一三年二か月に対応する退職金支給率は一一・八三、役付手当月額は一万六〇〇〇円、役付勤続年数三年一か月に対応する役付功労退職金支給率は一・七六である。

(勤続年数一三年二か月に対応する退職金支給率)

=(勤続年数一三年に対応する退職金支給率)+(勤続年数一四年に対応する退職金支給率と同一三年に対応する退職金支給率の差の二か月分)

=一一・六+(一三・〇-一一・六)×二÷一二

=一一・八三

(役付勤続年数三年一か月に対応する役付功労退職金支給率)

=(役付勤続年数三年に対応する役付功労退職金支給率)+(役付勤続年数四年に対応する役付功労退職金支給率と同三年に対応する役付功労退職金支給率の差の一か月分)

=一・七+(二・四-一・七)×一÷一二

=一・七六

2  以上によれば、原告隆司の、昭和三〇年四月一日から昭和四三年五月二九日までの期間についての、被告精機に対する退職金請求権は、次の計算のとおり、二九万三一五二円となる。

(基本給月額)×(退職金支給率)+(役付手当月額)×(役付功労退職金支給率)

=二万二四〇〇円×一一・八三+一万六〇〇〇円×一・七六

=二六万四九九二円+二万八一六〇円

=二九万三一五二円

3  なお、原告隆司は、昭和四三年に支給されるべき右退職金を、平成六年一二月に受領することとなるところ、昭和四三年当時と、平成六年一二月当時とは、物価・賃金水準に大きな開きがあるので、当然、右物価・賃金水準の上昇率に応じた手直しがされるべきであるのであり、その手直しとして、右金額に対し、年五分の複利計算がされるべきであると主張する。しかし、たとえそうであるとしても、当然に、右物価・賃金水準に応じた調整をすることができると解すべき根拠を欠くというべきである。

4  以上によれば、原告隆司の、被告精機に対する退職金請求権は、二九万三一五二円の限度で理由がある(なお、被告精機は、原告隆司が、被告精機の取締役に就任した(昭和四三年五月三〇日)後も従業員たる地位を退職せず、被告精機の代表取締役に就任した日の前日(平成六年三月三一日)までは、従業員を兼務していたことを理由として、原告隆司の、被告精機に対する退職金請求権は、一三五五万一五二七円となると主張する(答弁書一六頁)が、本件において、原告隆司は、被告精機に対し、昭和三〇年四月一日(原告隆司が竹内鉄工所こと清に雇用された日)から昭和四三年五月二九日(原告隆司が初めて被告精機の取締役に就任した日の前日)までの期間については退職金を、昭和四三年五月三〇日(原告隆司が初めて被告精機の取締役に就任した日)から平成八年五月三〇日(最後の取締役選任の日から二年後の日)までの期間については退職慰労金を請求しているので、原告隆司が、被告精機主張の右理由に基づき、被告精機に対し、退職金を請求する意思があるか必ずしも明らかではないので、当裁判所においては、右の判断に及ばない。)。

三  請求原因2(被告両社による原告隆司の取締役解任)

原告隆司は、いずれも被告両社の取締役会決議により、被告両社の取締役を解任されたと主張しながら、被告両社に対し、商法二五七条一項ただし書に基づき、役員報酬相当損害金を請求しているところ、仮に、原告隆司が被告両社の取締役会決議により被告両社の取締役を解任されたのであれば、右解任は、商法二五七条一項本文に違反して無効になるが、右の商法二五七条一項ただし書は、商法上取締役が有効に解任されたことを前提とする規定であるので、原告隆司の右主張は、論理的に矛盾しているというべきであるが、原告隆司が、取締役の解任を前提として、被告両社に対し、役員報酬相当損害金の請求をしていることを重視するとき、原告隆司の合理的意思としては、右請求に限り、仮定的に、原告隆司が被告両社から取締役を有効に解任されたことを前提とするものというべきである。そして、この点、被告らも、原告隆司が被告両社の株主総会で有効に解任されたと主張するので、以下では、右請求につき、原告隆司が、被告両社の取締役を有効に解任されたことを前提として判断する。

四  請求原因3(一)(原告隆司の被告精機に対する商法二五七条一項ただし書に基づく損害賠償請求権)(二)(原告隆司の被告精密に対する商法二五七条一項ただし書に基づく損害賠償請求権)について

1(一)  取締役と会社との関係は、委任契約に基づくものであり、元来委任契約はいつでも解除することができるものであるところ、商法二五七条一項本文において、会社は、株主総会の決議によって、いつでも取締役を解任することができる旨規定されているので、会社が、取締役を解任したとしても、それだけでは損害賠償義務を負うことはないのが原則である。しかし、会社によって、任期を定めて選任された取締役が、その任期途中に解任されると、当該取締役の地位が著しく不安定なものとなるので、この不安定な地位から取締役を保護するため、右解任に正当事由がない場合に、会社に対し、故意・過失を要しない法定の損害賠償責任を負わせたのが、商法二五七条一項ただし書の趣旨であると解される。

そして、取締役は、所有と経営の分離した株式会社において、会社から業務執行を委ねられた取締役会の構成員であるから、右正当事由は、取締役に職務執行上の法令定款違反行為があった場合、心身の故障のため職務執行に支障がある場合、職務への著しい不適任となるべき事情がある場合等、業務執行の障害となるべき客観的状況がある場合をいうものと解すべきである。

(二)  この点、被告らは、被告両社が清の創業にかかり、実質的に竹内一族がほとんどの株式を支配する個人会社であるから、取締役としては、右創業者一族で大株主である竹内一族の意向に、特に忠実であるべき義務を負い、右株主の経営、会社資産の処分等、会社の一切の行為につき、必要な都度、誠実に会社の現況等を説明し、右株主の意向に従い、これを経営に反映させる義務を負うのであり、右義務に違反すれば、直ちにこれが取締役解任の正当事由に該当する旨主張する。しかし、取締役は、会社に対し、商法において、善管注意義務(商法二五四条三項、民法六四四条)及び忠実義務(商法二五四条ノ三)を負うものと規定されているが、少数の株主が株式の大部分を支配する形態の株式会社であっても、取締役の会社に対する義務を加重するべき根拠はなく、かえって、前記のとおり、会社が恣意的に取締役を解任することにより地位が不安定になることから取締役を保護することが商法二五七条一項ただし書の趣旨であるので、この場合に限って、同条規定の正当事由の範囲を殊更に広く解する理由はないというべきである。もとより、右にかかわる具体的事情が、前記の取締役の職務への著しい不適任となるべき事情等の業務執行の障害となるべき客観的状況に該当する事由となることがあるのは当然である。

(三)  したがって、以下では、被告両社において、取締役に任期の定めがあるか否かの点についてはさておき、まず、原告隆司に、被告両社の業務執行の障害となるべき客観的状況があったか否かを検討する。

2(一)  一認定の事実によれば、原告隆司は、平成六年四月一日、被告精機の代表取締役に就任し、当時、被告精密の取締役も兼ねていた(もっとも、原告隆司は、被告両社のうち、殊に被告精密の業務執行については、さして重要な関与をしていなかった。)が、同年八月二八日に清が死亡した後、被告両社の創業者でオーナー一族である竹内一族の意向を無視して、独断専行の挙に出るようになり、虚言を弄して、平成六年九月一三日、妻の原告孝子を被告精機の取締役に就任(登記)させるなどし、平成六年一一月二一日の被告精機の取締役会において被告精機の代表取締役を解任された後、新たに被告両社の代表取締役に就任した被告みや子に対し、被告精機の業務の引継をせず、また、被告みや子に対して被告精機の従業員が決裁書類を上げようとするのを妨害し、あるいは残業を禁止する旨明言するなどして、従業員を混乱させ、また、被告みや子が被告精機の代表取締役として業務を遂行するのを妨害し、これらの結果、被告両社の取締役、従業員の間において、原告が、被告両社の取締役として業務を執行するにつき著しく信用を喪失したというべきであるので、原告隆司には、被告両社の業務執行の障害となるべき客観的状況があったというべきである。なお、原告隆司の、被告精密の業務執行をするについての障害は、必ずしも直接的なものであるとはいえないが、前記認定の被告精機と被告精密の一体的な関連性、原告隆司の被告精密における業務執行に対する関与の程度の希薄さ、原告隆司の、被告両社の代表取締役である被告みや子に対する理由のない反抗的態度、原告隆司の被告両社内での信用の喪失等の事情に鑑みるとき、原告隆司が、被告精密の取締役としての業務を執行するについても、被告精機におけると同様、業務執行の障害となるべき客観的状況があったというべきである。

(二)  以上によれば、原告隆司は、被告両社において、取締役として業務を執行するにつき障害となるべき客観的状況があったので、原告隆司の被告両社の取締役の解任については、正当事由があるというべきである。

3  したがって、その余の点を判断するまでもなく、請求原因3(一)、同(二)は、いずれも理由がない。

五  請求原因3(三)(原告隆司の被告両社に対する退職慰労金請求権)

1  株式会社が取締役に対して支給する退職慰労金は、取締役の報酬として、商法二六九条の規制が及び、定款に規定し、又は株主総会で決議した場合に限り、請求できるものと解すべきである。

2  請求原因3(三)(1)のうち、被告精機には退職慰労金規程が存在する(なお、<証拠略>によれば、被告精機の役員の退職慰労金は、役員退職慰労金規程四条、五条に基づいて計算し、取締役会又は監査役の協議において決定のうえ、株主総会において承認された額、又は、右規程に基づき計算すべき旨の株主総会の決議に従い、取締役会又は監査役の協議において決定した額の範囲内とする旨規定されている。)が、被告精密には退職慰労金規程が存在しないこと、被告両社とも、株主総会において原告隆司に対する退職慰労金の支給に関する決議をしていないことは、当事者間に争いがない。

この点、原告隆司は、退職慰労金の支給に関する株主総会決議が存在しなくとも被告両社に退職慰労金を請求できる根拠として、被告両社が現在に至るまで株主総会を開催していないこと、それにもかかわらず被告両社は清に対して退職慰労金を支給したこと、原告隆司は被告両社のために精勤してきたこと、被告精機には退職慰労金規程が存在し、被告精密には右規定(ママ)により退職慰労金を支給する慣行が成立していたので、いずれもお手盛りの危険性がないことを理由として、被告両社に対し、退職慰労金を請求するが、たとえそうであるとしても、被告両社の定款に具体的な定めがなく、また、被告両社とも、株主総会において原告隆司に対する退職慰労金の支給に関する決議(及び株主総会の取締役会に退職慰労金の決定を委ねる旨の決議に基づく取締役会による右退職慰労金額の決定)が存在しない以上、原告隆司の被告両社に対する退職慰労金請求は根拠を欠くというべきである。

3  したがって、その余の点を判断するまでもなく、請求原因3(三)はいずれも理由がない。

六  請求原因4(原告隆司の被告みや子に対する不法行為に基づく損害賠償請求権)について

1(一)  一及び四認定の事実によれば、原告隆司は、平成六年四月一日、被告精機の代表取締役に就任し、当時、被告精密の取締役も兼ねていたが、清が、平成六年八月二八日に死亡した後、独断専行の挙に出るようになり、被告精機の代表取締役を解任された後も、被告精機の従業員に対しては独断的に振る舞って社内を混乱させたり、新たに被告両社の代表取締役に就任した被告みや子の業務執行を妨害したりしたこと、その結果、原告隆司が被告両社の社内における信頼を喪失したこと、これらのため、原告隆司に、被告両社の取締役として、業務執行の障害となるべき客観的事情が存在したこと、そこで、被告みや子は、平成六年一二月一二日、翌日に原告隆司に被告両社の取締役を辞任するよう説得し、説得に応じないなら原告隆司を被告両社の取締役から解任するための株主総会を開催することを決意し、被告両社の全株主(ただし、原告隆司、原告孝子、西井直美を除く。)から、原告隆司解任の臨時株主総会についての委任状を取り付け、平成六年一二月一三日、原告隆司を呼びだして、被告みや子、原告隆司、小宮の三人が出席して、原告隆司に取締役の辞任を説得したが、これに応じなかったため、小宮は、原告隆司の取締役解任を議題とする被告両社の臨時株主総会の開催を宣言し、原告隆司の右総会開催に関する意向を確認したところ、原告隆司は、自己名義、原告孝子名義、西井直美名義(ただし、被告精機の臨時株主総会に関してのみ。)分を含め、全員出席総会として臨時株主総会を開催することに異議を述べなかったので、右総会において、賛成多数で原告隆司の取締役解任動議を決議したこと、右株主総会開催当時、被告精機における原告隆司、原告孝子、西井直美の持株比率合計は一四パーセント、被告精密における原告隆司、原告孝子の持ち株比率合計は一・三パーセントであったことが認められる。

(二)  当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、被告みや子は、原告隆司、原告孝子、西井直美には、事前に被告両社の株主総会の招集通知もせず、会議の目的を了知させた上で委任状を取り付けることもしなかった(西井直美については、被告精機の株主総会に限る。以下同じ。)こと認(ママ)められるが、右(一)認定の事実によれば、被告みや子は、原告隆司に対し、原告隆司の被告両社取締役解任を議題とする株主総会開催について意向を確認し、同人から、原告孝子、西井直美の名義分も含めて、右開催の同意を取り付けたこと、同人らの持株比率合計は被告両社のいずれにおいても過半数を大きく下回っていること、原告隆司には、被告両社の取締役を解任されるについて正当事由が存在したというべきことが認められるので、株主総会招集通知の欠缺等の点は、違法性の程度は小さいものというべきであるので、いまだ被告みや子らによる原告隆司の被告両社の取締役の解任は、違法とはいえず、民法七〇九条にいう不法行為を構成するには至らないというべきである。

2  したがって、その余の点を判断するまでもなく、請求原因4は、理由がない。

七  請求原因5(原告孝子の被告精機に対する賃金等請求権)について

1  原告孝子は、被告精機の従業員として右賃金に見合うだけの労務の提供はしなかったが、原告隆司の妻として、緊急の時にその業務を補う等、目立たないが隠れた形で被告精機に貢献してきたこと、中小企業において、税務対策上、取締役の妻を従業員として扱い、取締役の報酬の一部を分離して妻に賃金として支給することは、一般的な取扱いであること、原告孝子の賃金請求権を認めなければそれだけ原告隆司の報酬額が広がるにすぎず、そのような迂遠な解決よりも、原告孝子が被告精機において従業員としての地位を認められてきたという実態を考慮して、原告孝子の賃金請求権が認められるべきであると主張する。しかしながら、たとえそうであるとしても、原告孝子と被告精機との間に労働契約が存在しない(この事実は当事者間に争いがない。)以上、原告孝子の賃金請求は根拠を欠き、理由がない。

2  したがって、その余の点を判断するまでもなく、請求原因5は理由がない。

八  結論

以上によれば、原告隆司の請求は、被告精機に対する退職金請求権二九万三一五二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、原告隆司のその余の請求及び原告孝子の請求はいずれも理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条ただし書、六五条一項を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 長久保尚善 裁判官 森鍵一)

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